ハードボイルド

1)
ダシール・ハメット、レイモンド・チャンドラーらによって確立されたジャンル。
感情を抑えた筆致と独特の抒情感を特徴とする……はずが、日本では「エロとグロと
バイオレンス」というよく分からない理解で広まってしまった。何故だ。
主人公は中年以上の男性である例が多く、ミステリの探偵としては例外的なまでに
行動的。そして大抵後頭部を殴られて気を失う。でも死なない。フィリップ・マーロウ
の頭蓋骨は途轍もなく頑丈らしい。
チャンドラーの生み出した主人公、フィリップ・マーロウはミステリ史上有数の人気を
誇る探偵である。彼を評する言葉「卑しい街の高潔な騎士」を以ってハードボイルドの
真髄とする意見も根強い。

ハメット、チャンドラーにロス・マクドナルドを加えた三人を「ハードボイルド御三家」と
称する。

2)
ハードボイルドとは語源的には、
昔、アメリカの海兵たちが上司の将校の態度のハードぶりに「あいつは中身までカチカチだ」と思い、
将校の制服の白いカラーから卵を連想し「あいつはハードボイルド(固ゆで卵)だ」と言った事により、
ある種の態度や姿勢を指すようになったのだそうだ。

3)
ハードボイルド・ミステリ
社会派推理とともに、本格ミステリ好きの人が砂を噛む思いで読むミステリ。

正統派ハードボイルド
文学だぞ、文学。正座して読めよ。

通俗ハードボイルド
おれたちゃ、どうせ馬鹿だよ。酒と女と殴り合い。それ以外に何か必要かい?

軽ハードボイルド
半裸の美女との楽しい会話。謎ときなんか、やってる場合じゃないよ。

重ハードボイルド
殴れ! 男なら、殴れ! 立て! 立たせるんだ! ヴェルダために!

ネオ・ハードボイルド
軟弱男と笑わば笑え。探偵だって人間だ。ぐちのひとつもいいたいぜ。

私立探偵小説
ハードボイルドぉ? マッチョな男なんてもういらないわよ。わたしたちは自分の道をいくだけよ。


バールストン先攻法(ギャンビット)

真犯人である人物を、既に死んでしまったかのように見せかけ、
読者が彼(彼女)を容疑者から外すようにとし向ける手法。

先攻法とはチェスの用語で、より大きな目的のために自分の手駒をわざと犠牲に
する戦術の総称らしい。この「バールストン先攻法」という言葉は、
フランシス・M・ネヴィンズJrがクイーンのいくつかの作品群を論ずる目的で
作った造語らしいので、「エラリイ・クイーンの世界」を持っている方の
フォローきぼん。


バカミス
バカミステリーの略。驚愕を通り越した結末や解決、論理があるミステリのこと。
作者の意図するしないには関わらない。
霞流一が命名し、本人も実作にて実践している。
バカとは書いてあるが批判的な意味合いではなく、ある種の感服、同情を持って
使われる事が多い。
ただ、読者の好みにより、「壁本」「地雷」にもなりうる。

パスティシュ
パロディ。ある作品を元に、ファンが想像を膨らませて作った二次創作物。
元になった作品の主人公を登場させ、原作中で語られなかった挿話の一つという
形をとって書かれることが多い。
パロディとパスティシュの差は曖昧だが、ミステリでは「原作の雰囲気をそのまま
模倣したもの」をパスティシュ、「原作を茶化したり戯画化したもの」をパロディと
いう傾向がある。

早業殺人

密室トリックの一種。殺害時間を錯覚させる方法。

密室状態におかれたまだ生きている被害者を目撃者に見せ死んでいるように思わせた後でドアを破るなどして“密室”に入り、その時に目撃者に気がつかれないようにして被害者を殺害する。これによって、被害者は密室状態で殺されていたように錯覚させることができる。

被害者が密室状態で死んだように見える状態でいるとか、目撃者に気がつかれないように被害者を殺害するというのは、非常に都合がよすぎる感も否めないので、それを改良した次のような変形もある。

1.共犯者が被害者を装って密室内にいる。犯人は、それを目撃者に見せた後、目撃者を誰かを呼びにやるなどして遠ざける。その間に本物の被害者を運び込む。
2.1で共犯者=被害者の場合。


犯人

1)
犯罪行為の主体。
犯罪とはいえない場合(カレーを焦がしたとか)でもこう呼ぶことが多い。
<註1> 
人間でない場合もある。
<註2> 
いないときもある。

2)
悪い人


犯人は、おまえだ!!
一部の探偵が真犯人を追いつめるとき使う言葉。
この言葉を言われると犯人はとたんに青ざめ、「な、なにを証拠に」とかの
決まり文句をはく。

ハンティントンライト
1888年ヴァージニア州に生まれた。ハーバード大学を優秀な成績で卒業した後、
ミュンヘンとパリで美術を学んだ。1907年からは〈ロサンゼルス・タイムズ〉を初め幾つかの出版物で、
美術評論家、あるいは文芸評論家として健筆を振るった。
有名な雑誌〈スマート・セット〉の編集長を勤めたこともあり、1916年には『前途ある男』という小説を初めて発表している。
だが元々体が丈夫でなかったこともありコラムニスト兼編集者兼作家という無理がたたって1923年にはついに病に倒れ、
2年以上の療養生活を余儀なくされたが、この間に2000冊以上の探偵小説を読破、ついに自ら筆名を使って探偵小説を書こうと思い立った。
筆名は、母方の旧家名を借り、それに汽船゛Steam Ship"の頭文字を付けた。
その名は、S・S・Van Dine  関連ヴァンダインの探偵小説作法二十則

 だからその経歴は真っ赤なウソなんだって。
 ヴァンダインスレを見れ。

バリツ

武術、柔術とも考えられているが、実際のところは謎につつまれている。

この技を身につけた者は、病気にかからないかぎり
寿命をむかえられると考えられている。


百円ミステリ

百円ショップ・ダイソーが発行しているミステリ文庫(?)。第一弾として30冊が刊行された。
百円ショップ内で販売されており、一般の書籍流通には乗っていない。
「百円でミステリ小説が読める!」を売りにしたシリーズだが、中古書店が隆盛している
影響か、あまり売れ行きは芳しくない様子。つーか、そもそも売ってる店舗をなかなか
見かけねぇ。内容はピンキリで、なかなかの力作もあるらしい。

<参考スレッド>
「ダイソー100円ミステリスレッド」
http://book.2ch.net/test/read.cgi/mystery/1003152950/


ピカレスク
〔picaresque novel(スペイン) picaro(ならずもの・悪漢)に由来〕
一六世紀半ば、スペインで騎士道小説の理想主義への反動として現れ、
やがてヨーロッパ中に流行した小説の様式。
「ピカロ」の冒険を描き、辛辣(しんらつ)に社会を風刺する。
作者未詳の「ラサリーリョ=デ=トルメスの生涯」、ケベートの「かたり師
ドン=パブロスの生涯」などが代表作。
悪漢小説。悪者小説。

フーダニット

Whodunit――Who has done it?(誰がやったか)を縮めた言葉で、普通の推理小説でもお馴染みの犯人探し。何人かの容疑者が登場して、その中から犯人を当てさせる趣向。

推理パズルの種類として他に、ハウダニット、ホワイダニットなど


伏線

1)
小説・戯曲などで、のちの展開に必要な事柄をそれとなく呈示しておくこと。
また、その事柄。
「―を張る」

2)
のちの物事の準備として、前もってひそかに設けておくこと。
また、その事柄。
「―を敷く」


覆面作家

1.正体が明らかにされていない作家。単に作家が個人的理由により
正体を明らかにしたくない場合、純文学など他のジャンルにおける
大家が余技もしくは趣味によってミステリーを書いた場合、すでに
名の知られているミステリー作家が別名義でミステリーを書く場合
などに覆面作家となることがある。

2.北村薫の《覆面作家シリーズ》に登場する名探偵。天上的美貌の
お嬢様。「覆面作家」というペンネームでミステリーを書いている。
本名は新妻千秋。                  (A.M.)


富士見ミステリ文庫
メフィスト賞の中にたまに紛れ込んでいる、極めて色モノ思考の強い作品群の名称。
要約すれば壁本

プロバビリティの殺人(犯罪)
probability。多分そうだろうという可能性の程度。確率。公算。
〜の殺人――殺したい相手を直接殺すのではなく、何らかの仕掛けで死ぬ可能性を高め、結果として死にいたらしめるという方法。
谷崎潤一郎「途上」は世界初の「プロバビリティーの犯罪」モノとして有名な作品で、後に乱歩の「赤い部屋」などを生み出すことになる。
文三
講談社文芸第三出版部の略

ファース
ミステリー用語ではないけど、喜劇、ユーモアのある読み物といったくらいの意味。

プロット
小説の筋書きや構想のこと。

文庫

〔「ふみぐら(文庫)」の音読み〕
(1)書物を収めておく倉庫。書庫。
(2)本や帳簿、手回りの品などを入れておく手箱。
(3)同一出版社から続いて刊行される、同一の型・装丁の叢書。特に、廉価で普及を目
的とした小型本。文庫本。「レクラム―」
(4)作者・学校・地域など、ある枠の中でまとめた蔵書。「学級―」「豊町―」
(5)「文庫結び」の略。
(6)書名(別項参照)。

大辞林第二版より


別荘
持ち主の財力を誇るかのような広大なものとこぢんまりしたものと両極端。
寒冷地や海辺など、立地に即した特殊な仕様であることも多く、トリックにも利用されて
いわゆる館ものの様相を呈する。
孤立させやすいという点においてはペンションや人里離れた洋館とほぼ同じ。
しかし友人や親戚を何人も招待して各々に個室を与えるという豪勢な舞台のためか
物語のどこかに遺産問題が絡むパターンにも陥りやすい。
毎年同じメンバーが集まる、など妙に因縁を感じさせる設定。

ペンション

湖畔、高原などにある宿泊施設。
ホテルより小規模でアットホームな雰囲気を作りやすく、また登場人物も
・オーナー夫妻 ・常連客 ・女子大生グループ ・カップル ・怪しげな謎の人物
と、総勢10人程度で収まるため、キャラの区分けがしやすく、かつ登場人物どうしが
一見無関係であることもフーダニットには便利。
山中に位置するため、吹雪や土砂崩れなど、外界と隔絶された環境を作りやすいという利点もある。
スキー場近くの場合は雪があって当たり前なので、足跡トリックなども多用される。
ゲーム「かまいたちの夜」は吹雪に閉ざされたペンションが舞台。
東野圭吾「ある閉ざされた雪の山荘で」は、お約束を逆手にとった設定になっている。

参考:クローズドサークル


ヘンリ・メリヴェール卿

米国の作家カーター・ディクソン作『プレーグ・コートの殺人』でデビュー。
通称H.M卿
大柄でビア樽のような体つき。大きな禿頭。
大きな鼻の上へずり落ちている鼈甲ぶちの眼鏡。
その眼鏡越しに相手を見る、意地悪そうな顔。
ひどい匂いのする葉巻を愛用する。
犯罪捜査に掛けては、天才的な洞察力を見せる。

代表作『ユダの窓』『爬虫類館の殺人』


変格ミステリ

本格ミステリと対を成す形態のミステリ。

といっても、本格ミステリの定義そのものがあいまいであるため、
両者の間に明確な区分があるわけではない。
一応、編者個人の見解としては、
謎の構成やその解明に至るプロセスに重点をおく作品が本格ミステリ、
謎や事件経過の「文章的な見せ方」に重点をおき、
論理的展開よりも結末のカタルシスを重視する作品が変格ミステリ、
といったところか。
「見せ方」の手法として、サスペンスなどの心理描写に重点をおくものや
幻想ミステリ、倒叙、叙述などの形態をとることが多い。
しかし、これらのジャンルの作品のすべてが
十把一絡げに変格ミステリというわけではない。
どんな作品でも本格と変格、両方の要因を包含しているものであり、
どちらの要因が大きなウェイトを占めるかによって、
分類がなされるのであろう。

一応の分類基準としては、
かつて江戸川乱歩が「奇妙な味に重きをおくもの」と呼んだ諸作品が
現在で言う変格ミステリにあたると思われる。
このときに例としてあげられていたのは、
ポー「盗まれた手紙」ドイル「赤髪連盟」チェスタトン「奇妙な足音」
ダンセイニ「二壜のソース」ウォルポール「銀の仮面」など。


ホームズ
コナン・ドイルが生み出したおそらく最も有名な私立探偵。
何故かやたらあだ名として使われる。

ポケミス

ハヤカワ・ポケット・ミステリの略。早川書房刊行。
1953年9月5日、欧米のミステリを幅広く紹介するためスタートし、
現在も刊行され続けている世界有数のミステリ・シリーズ。
通常の文庫サイズとは異をなし、ペーパーバック・スタイルを取り入れ、
本格物はもちろんスリラー、サスペンス、ハードボイルド、スパイ、
警察物、法廷物などミステリ全般に渡って出版されている。
ビニールカバーが付いているのも特徴。

かつてのポケミスには函がついていたことがあった。ごく薄いボール紙を針金
で留めただけの函で、昭和33年6月に300巻突破を記念して作られたものである。
その際には片隅に「お手元に綺麗なままの本をお届けしたくこんな簡単な函を
作ってみました。お買い上げ後にもしご不要でしたらお捨て下さって結構です」
と刷り込まれた。この言葉はやがて後半部が「いわば包装紙がわりです。お買い
上げ後にはお捨てください」と変わる。昭和46年3月ごろを境に、函から現在の
ビニールカバーに変わったと考えられる。「お捨て下さい」などといわれると、
逆に意地でも捨てるものかと思うのが人情で、この函がささやかながらコレクター
ズ・アイテムとなっている。一方、その間に函の代わりに色刷りのジャケットの
ついたものもいくつかある。その最初のものはNo.898「フォン・ライアン特急」
(昭和40年8月)ではないかと思われるが、これらは映画やテレビドラマの原作や
ノヴェライゼーションがほとんどで、表紙や裏表紙にはスチル写真が配されている。
昭和41年と42年に集中しており、「007」「ナポレオン・ソロ」「ハニー・ウエスト」
などのシリーズや「逃亡者」「サンセット77」などのタイトルが並んでいる。
(長谷部史親「ポケミスの秘密」より抜粋) 


本格

1)
模倣と楽屋オチ

2)
社会派ミステリ等の「謎よりも登場人物やドラマの描写に主眼を置いた作品群」に対して、パズラーに代表される「犯人当てやトリック解明を最も重視した作品群」のこと……だと思われます。


本格ミステリ

1)
法月倫太郎 綾辻 島田 若桜木虔
などの作家が中心となって盛り上げた古典的推理小説。
去年「新本陣殺人事件」が文春5位に輝き、ジャンルの不死を強くアピールした。

2)
法月倫太郎 綾辻 島田 若桜木虔
などの作家が中心となって盛り上げた古典的推理小説。
去年「新本陣殺人事件」が文春5位に輝き、ジャンルの不死を強くアピールした。

3)
犯人・トリックがわかると
再読の妙味が9割以上失われるという
おそるべき読み捨て小説または謎解きゲーム。

それでも伏線のばら撒きかたを検証するなど
といってパズルのピースを拾い集める
けなげな再読者にはまことに頭がさがる。


本歌取り

平安時代、既に詠まれた歌を踏まえ、その本歌を当然誰もが知っているものとして、
それをもじったり発展させたりして詠む。という、いわば遊びの技法です。
この遊びは「もちろんコレがあるのはご存じですよね」と、
それを見る人にも「もと」を知っているだけの教養と遊び心があることを前提にして、
「モト」と「替え歌」の微妙なニュアンスや出来を楽しむという大らかなものなのです。
「本歌取り」に使われるほどの「歌」は、万人に知られるだけの親しみがあるということです。

言うまでもないが、ミステリーで使う場合は「歌」とは「作品」の意。「本作品取り」とは言わない。
「横溝の本歌取り」という言葉が現代日本人にはいちばん馴染みやすく一般的。

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